【10分で分かる】「働き方改革」の基礎知識と経営者がやるべき4つのこと

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経営支援コラム

2019年4月、日本政府は「働き方改革関連法」法案の一部を制定しました。働き方改革の導入は、大企業だけでなく、中小企業にとっても非常に重要な経営課題として検討されるべき事案となっています。と言いますのも、2020年に発生したコロナウイルス感染症の影響により、テレワークが半ば強制的に導入されるような情勢となり、働き方が大きく変わったことを経営者・従業員の双方が意識するようになったかと思います。

そもそも、国からの説明が明確にされていない背景もあり、「働き方改革とは何か説明してください」と言われても、明確に説明ができる経営者の方はそう多くはないかと思います。

また、政府が実際に取り組もうとしている「働き方改革」には大きな課題があり、結局のところ経営者側が積極的に推進していくことでしか実際に改革が起こせない、という実情もあります。

そこで、本記事では、

  • そもそも「働き方改革」とは何なのか?何故日本にとって「働き方改革」が必要なのか?
  • 政府が実際「働き方改革」で何をやろうとしているのか?何が課題なのか?
  • 経営者として「働き方改革」においてやるべき(すぐにできる)4つのこととは何か?
  • 「働き方改革」の経営者・従業員双方にとってのメリット・デメリットとは何か?

以上を、出来るだけわかりやすく解説したいと思います。「働き方改革」を具体的に実践していただくことで、あなたの会社に様々なメリットがもたらされる可能性があるので、是非ご一読ください。

なお、本記事は、以下のような方にオススメです。

  • 中小企業経営者
  • ベンチャー企業経営者
  • 企業の経営企画に携わられている方
  • 事業を立ち上げたばかりの方
  • これから事業を立ち上げようとされている方(フリーランス含む)
  • 経営について学ばれている方

働き方改革の定義とその背景

厚生労働省が定義している「働き方改革」の定義と背景は、以下の通りです。

(参照:厚生労働省ホームページ)

背景にある「生産年齢人口の減少」について詳しく見ていきましょう。まず、「生産年齢」とは、15歳〜64歳のことを指します。つまり、一般的に社会に対して何らかの付加価値(主に労働力)をもたらすと考えられている年齢です。この生産年齢人口の減少は1995年ごろをピークに年々顕著になっています。以下のグラフは総務省が発表したものですが、生産年齢は1995年に8,716万人に到達していますが、そこから年々右肩下がりとなってしまっており、2015年には7,592万人となっています。

少子高齢化に伴いこの減少は更に勢いを増し、2030年には6,773万人、2040年には5,782万人、2050年には5,001万人、2060年には4,418万人となる予測が立てられています。大まかに言えば、20年後には今の約2割にあたる1,555万人(2019年東京都人口以上の1.67倍にあたる)、30年後には今の3割以上にあたる2,340万人(2019年東京都人口以上の2.52倍にあたる)の労働力が無くなる計算です。

参照)総務省ホームページ

上記の通り、将来の労働力減少は極めて深刻な問題であり、これを受けて政府も公的・民間企業もなるべく早い段階で対策を打つことが求められています。

厚労省の働き方改革取り組みと課題、解決のいとぐち

では、「働き方改革」において、国は具体的にどのような取り組みを行おうとしているのでしょうか?

厚生労働省は、様々な取り組みを行なっていますが、そのうち本記事では「長時間労働の是正」と「雇用形態にかかわらない公正な待遇確保」について触れたいと思います。

この2件の共通点は、残念な言い方になってしまいますが、「まだまだ多くの課題が残っており、現状としては抜本的な働き方の改革に至っていない」ということになります。

その課題に対するソリューション案も併せて提示したいと思います。

①長時間労働の是正

日本は相変わらず長時間労働が労働環境における大きな課題となっています。主要先進国(G7)においては、年間平均労働時間は、アメリカが1800時間、イタリアが1730時間、カナダが1700時間となっていますが(参照: https://www.konicaminolta.jp/business/solution/ejikan/column/workforce/long-working-hours/index.html )、日本の正規労働者の労働時間は以下緑色のグラフの通り(「一般労働者」として表記)、20年ほど前から2,000時間を超過した状態が続いています。同じ東アジアの韓国においても長時間労働は社会問題として捉えられていますが、それでも1,963時間となっており、日本の正規労働者の平均年間労働時間を下回っています。

大きな原因の一つとなっているのが「時間外労働」、いわゆる「残業」です。厚生労働省は時間外労働の上限について、「月45時間、年360時間」を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定しています(参照:厚生労働省資料: https://www.mhlw.go.jp/content/000335628.pdf)。

ただ、「臨時的な特別な事情」と記載して「年720時間、単月100時間」を上限としています。これは所定月平均労働日数を20日とした場合、1日5時間までの残業を許容しています。終業時間を17時とした場合、結局22時までは残業を許容していることになり、本質的な問題解決となるかどうかは大きな疑問が残るところです。

実情としては、個々の経営者の方々が長時間労働が企業にもたらすデメリットを本質的に理解し、長時間労働の是正を積極的かつ真剣に行うことが極めて重要です。

長時間労働は、①人件費の増加、②従業員の心身の健康に悪影響、③離職率増加の可能性を増大、など、企業に多くの致命的なデメリットをもたらします。これらを是正すれば、固定費削減や従業員のモチベーションアップ、離職率低下などに繋がります。

実際に事業主側がやれる取り組みは、以下「事業主側がやれること」をご覧ください。

②雇用形態に関係のない公平な報酬の提供

どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにする取り組みのことを指します。

これを導入するための考え方が「同一労働同一賃金」です。つまり、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

以下が厚生労働省が指定するガイドラインとなりますが、パートタイマーに対しても、基本給のみならず、昇給や賞与、役職手当、その他手当を提供する、という考え方です。

しかし、本件は法案制定によって「義務化」されているにも関わらず、実態においては正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間での格差が埋められていないのが現状です。理由としては「人件費の増加」です。特にコロナ禍における不況により、固定費削減の方向に踏み切る企業は大幅に増加しており、導入に至っていないというのが実情です。また、同一労働同一賃金を守らない場合の罰則が特に制定されていない、という曖昧さが残っているのも理由の一つです。

ただ、不合理な待遇格差は、損害賠償請求のリスクを伴います。罰則がないからといって本件に真剣に取り組まない状態が続けば、労働者側が訴訟を起こした場合、よほどの理由がない限りは敗訴や賠償支払いの可能性が高いことを理解していただくことが肝要です。

解決策の一つとして、厚生労働省が提供する「キャリアアップ助成金」などを活用することです。これには様々な助成金プログラムが含まれますが、一例としては「非正規雇用労働者の正規雇用化」があります。仮に非正規雇用労働者を正規化することが妥当と判断する場合、事業者側は助成金申請すれば、ケースによって異なりますが、事業者側に21.5万円〜72.0万円の助成金が支給されることがあります。

坪松 裕樹
私もベンチャー企業運営時に本助成金を申請し支給されたことがあり、当時の会社は小規模だったこともあり、少なからず経営状態を助けてくれたので、活用しない手はない、とは思います。ただし、申請から支給まで数ヶ月かかりましたので、申請時は時間に余裕を持って行なっていただくことをおすすめします。

厚生労働省はその他の支援もしているようですので、詳しくはこちらをご覧ください。

経営者側がやるべき(すぐにできる)4つのこと

では、経営者側が「働き方改革」において実際に行えることとは何でしょうか?もちろん、業種や規模によって「やれること」が変わってきますので一概に「これ」というものは無いのかもしれませんが、あくまで一般論として以下4つのことがあげられるかと思います。

2021年1月時点で私が考える「すぐにできること」を提案させていただければと思います。

①テレワークの更なる継続や拡大→ワークライフバランス向上

コロナウイルス感染症が発生した2020年は、「仕事のやり方を大きく変えた1年」と言われています。それを担った一つとしては、間違いなく「テレワークの台頭」が選ばれると思います。

テレワークを実施したことにより、東京都にある2,034社の事業主のうち、91.3%もの回答者が「従業員の通勤時間や勤務中の移動時間の削減」に成功した、と答えています。

東京都にある会社の従業員の平均通勤時間は片道1時間と言われています。往復2時間プラス、勤務中の移動時間が削減できれば、1日平均2.5時間 x 20日 = 1ヶ月あたり50時間、つまり丸2日以上の時間を削減できます。そうすれば、彼らのプライベートの時間も増え、ワークライフバランス向上にもつながり、仕事におけるモチベーション維持または向上や離職率低下などにもつながります。また、これはもちろん経営サイドにも当てはまる話です。

②経費を徹底削減→売上をUPさせる重圧を軽減

働き方改革を実現できれば、一定レベルのコスト削減を実現できる可能性が高まります。

仮に、上記テレワークを導入するだけでも、交通費やオフィス家賃の削減や軽減に繋がります。従業員が30人いるとした場合、

①月平均通勤費を20,000円とし、半数を週4日テレワークとし、残り半数をフルリモートにする

②月平均勤務中交通費を10,000円とし、半分の従業員がそれを使うとする

③オフィスをコワーキングスペースに切り替え、15名をフルリモートとしたことで、月の家賃が1,000,000円だったのを300,000円(15名 x 一人あたり20,000円)に削減した

  1. 月通勤費:(20,000円 x (4/5) x 15名) + (20,000円 x 15名)= 540,000円
  2. 月勤務中交通費:10,000円 x (4/5) x 15名 = 120,000円
  3. オフィス家賃:1,000,000円 – 300,000円 = 700,000円

合計(❶+❷+❸)= 1,360,000円

つまり、上記の計算ですと、月あたり合計で1,360,000円もの経費削減が可能、ということになります。

さて、ここで問題です。

坪松 裕樹
Q. ①売上を1,360,000円をあげる場合と②経費を1,360,000円下げる場合、経営側から見れば、「費用対効果」はどちらが大きいでしょうか?

以下の図をご覧ください。また、以下を条件とします。

  • 元々の売上は3000万円とする
  • 営業コストは変動費で、売上の40%かかるものとする
  • 元々の経費は1400万円とする
  • その他費用は100万円とする

正解はもちろん、

坪松 裕樹
A. ②「経費を1,360,000円下げる場合」

です。①「売上を1,360,000円上げる場合」と比較すると、「②経費を1,360,000円下げる場合」のほうが利益が540,000円も多く、これは14%も利益率が高いことを意味します。12ヶ月間これをすれば、1年で6,480,000円もの差が生まれます。

もちろん、営業コストをなるべくかけずに売上を上げる努力ができれば、経費削減をしなくとも利益が上がるため、変動費の調整も重要になってきますが、難易度で考えれば、一般的には経費削減のほうが低いことが多くなります。

一定の経費削減が実現できれば、会社全体として売上UPの重圧を軽減させることができます。また、売上を上げるにあたっての労力と経費削減を下げるにあたっての労力を比較した場合、一般的には後者のほうが軽いとされています。

③無駄なプロセスの排除による工数削減→さらなるコスト削減など

組織内の業務プロセスで無駄になっているものがある場合、それを排除や改善することで工数を削減することができます。

また、DXを積極活用したり、無駄な会議を減らすことによっても、更なる人件費などのコスト削減に繋がります。

業務効率化の必要性や具体的な進め方に関しては、以下ブログにて詳しく解説しておりますので、是非ご一読ください。

業務効率化が必要な4つの理由と具体的な進め方とは?

④フレックスタイム制度の積極導入

そもそも「フレックスタイム制度」とは何でしょうか?

厚生労働省が発出している「フレックスタイム制の分かりやすい解説&導入の手引き」によれば、以下のように定義されています。

フレックスタイム制は、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることによって、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができる制度です。

フレックスタイムの主なメリットとしては、

  • 出勤時間をずらすことによる通勤ラッシュ緩和
  • 勤務の自由度が高まるため、優良人材を確保しやすい
  • 効率的な時間配分ができるため、残業軽減につながる

などです。

逆にデメリットとしては、

  • 取引先や社内での時間調整が難しくなる場合がある
  • 時間管理のできない従業員による生産性が損なわれたり、業務効率が悪くなる場合がある

などです。

2000年代あたりまでは未だフレックスタイムが一般的ではありませんでしたが、最近はフレックスタイム制がごく一般的になってきており、その中で成果を出す方法論やノウハウも増してきているため、他部門との連携が多い一部職種(一般的には営業職やマーケティング職)を除いて、積極導入に反対する経営者は少なくなっています。

上手にフレックスタイムを活用できれば、更なるコストカットや業務効率化が図れるなど、メリットが多い制度となるため、よほどの理由がない限りは積極導入すべきと個人的には考えております。

働き方改革の主なメリット

「働き方改革」を導入することによって発生しうる、会社にとってのメリットとは一体何でしょうか?ここでは「経営者側」と「従業員側」の両面で解説していきます。

経営者側

  1. 所定の時間内で仕事を終わらせるという意識が芽生え、時間あたりの生産性が向上し、仕事自体の効率化が図れる
  2. 就業時間が減ることが多くなり、結果的に残業代(=人件費)を削減できる
  3. オフィス使用時間が減ることが多くなり、結果的に水光熱費(=オフィス)を削減できる
  4. 就業時間が減ることで終業までの効率性が高くなり、従業員の充実感が向上するため離職率ダウンにつながる

従業員側

  1. 就業時間が減ることが多くなるため、プライベートの時間が増える
  2. 有休消化の機会が増える
  3. 副業できる時間も確保できる

働き方改革のデメリット

そして、ここで働き方改革導入によって発生しうるデメリットも把握しておきましょう。闇雲に働き方改革を導入することによって思わぬ「痛い思い」を回避することも経営者として重要なタスクです。ここでも「経営者側」と「従業員側」の両面で解説していきます。

経営者側

  1. 従業員の業務が所定時間内に完了しない場合、経営陣が完了させないといけなくなる場合がある。そうなれば、経営者側への負担が大きくなる

従業員側

  1. 残業代が支給されなくなることがある

まとめ

いかがでしたでしょうか?

まとめると以下のようになります。

  • 働き方改革とは
    • 働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革
  • 国による働き方改革の主な取り組みとその課題
    1. 長時間労働
      • 「臨時的な特別な事情」と記載して「年720時間、単月100時間」(月平均労働日数を20日とした場合は1日5時間)を上限としているため、本質的な問題解決になっていない
    2. 雇用形態に関係のない公平な報酬の提供
      • 同一労働同一賃金を義務化しているものの、違反した場合の罰則がなく、かつ人件費増加が懸念されるため、経営者側が導入を渋っているのが現状
  • 経営者が「働き方改革」においてやるべき(すぐにできる)4つのこと
    1. テレワークの更なる継続や拡大
    2. 経費(特に人件費、交通費、家賃、水光熱費など)の徹底削減
    3. 無駄なプロセスの排除による工数削減
    4. フレックスタイム制度の積極導入
  • 働き方改革のメリット・デメリット
    • 経営者側
      • メリット:
        1. 所定の時間内で仕事を終わらせるという意識が芽生え、時間あたりの生産性が向上し、仕事自体の効率化が図れる
        2. 就業時間が減ることが多くなり、結果的に残業代(=人件費)を削減できる
        3. オフィス使用時間が減ることが多くなり、結果的に水光熱費(=オフィス)を削減できる
        4. 就業時間が減ることで終業までの効率性が高くなり、従業員の充実感が向上するため離職率ダウンにつながる
      • デメリット:
        1. 従業員の業務が所定時間内に完了しない場合、経営陣が完了させないといけなくなる場合がある。そうなれば、経営者側への負担が大きくなる
    • 従業員側
      • メリット:
        1. 就業時間が減ることが多くなるため、プライベートの時間が増える
        2. 有休消化の機会が増える
        3. 副業できる時間も確保できる
      • デメリット:
        1. 残業代が支給されなくなることがある

国が大々的に標榜し法案として制定した「働き方改革」ですが、現状は課題だらけの非現実的な内容に終始してしまっており、結局は事業者が積極的に現場で推進していくことが求められています。組織の規模や業種によってやり方が変わってくることもあり、現状ではプロトタイプの無い中で模索していくしかない状況ではあるものの、導入することによるメリットが何かと多いのがこの「働き方改革」の魅力だと考えております。

ご自身の会社の働き方を変えたいが、どうしたら良いか分からない、という方もいらっしゃると思います。

エフィ・ビズでは、ベンチャー企業立ち上げ当初から、自ら働き方改革を実践し高い従業員満足度を維持、そして他社の働き方改革に対しコンサルティングを行い実績を挙げてきたコンサルタントが、具体的にどのように働き方改革を導入・実践していけば良いのか、相談に乗らせていただきます。

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